Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 60年目の宝箱 FBMP7314.gif 〜ドリー夢小説
 



          




 お天気も上々なら風も心地いい、正に行楽日和の昼日中。港に間近い大きな広っぱにて、表向きには恒例の、でもでも実は…今年だけの特別な事情を孕んだ、剣術大会が大々的に催されていて。例年の倍っていう参加者たちが倒し倒されした試合も進んで今は準決勝。第一試合の方では、ウチの剣客の一人としてエントリーしていたサンジさんがあっさりと、その自慢の蹴技にて相手側のデカブツを叩き伏せた。そして迎えた第二試合。最終決戦への勝者を決めるもう1つの立ち合いに挑む勇者たちの名が、高らかに読み上げられる。


  【タンヌキ商会、剣客、荒海のゴンザ、
         対 鍛治屋、剣客 ぞろのあっ! 前へっ!】


 ………はい? そいや今までは あたしも出場者だったから気がつかなかったけど。今初めて聞いたよ、これ。ゾロさん、本名は“ぞろのあ”っていうの? ゾロっていうのはあだ名だったの? 初耳だったことへ あたしがキョトンと小首を傾げたと同時、
「ぶあっはっはっはっ♪」
 やっぱり今初めて“登録名”を聞いたらしいサンジさんが、咥えてた煙草を口許から吹き飛ばす勢いで大笑いし、ナミさんもお腹を両手で押さえてクスクスと笑って見せる。あれれのれ? 何がそんなに可笑しいの? そして、怪訝そうな顔になってたあたしの両隣りでは、
「…ゾロってそんな名前だったんか。」
「知らなかったなぁ。」
 会場周辺のお祭り騒ぎに浮かれていてか、ここまでろくすっぽ試合を観ていなかったのらしいチョッパーとルフィが、真ん中に立ってたあたしと同じように、自分の胸の前で腕を組みながら、やっぱり怪訝そうに小首を傾げていたりするから………って、何なのよ? それ。自分たちの仲間の名前でしょうがよっ。
「サンジとゾロの試合は観なくても判るからサ♪」
 う…ん、それは判る。勝つって判り切ってるもんをわざわざ見物もないよね。事実、ここまでの試合の内、敵勢との立ち合いになったの全部、サンジさんと同様にほとんど瞬殺だったらしいし。真剣じゃないのに、刃先を潰した“模擬刀”なのに。目にも止まらぬ勢いで“ぶんっ”と振り下ろされる剣撃一閃でぱったりと、面白いように相手が倒れる倒れるってありさまなんですものね。そんな凄腕のゾロさんが、やっぱり…重みは真剣と同じながらも全く切れない模擬刀を2本、鞘ごと腰へと提げてのお出ましで。ああ、やっぱりカッコいいなぁ〜vv 威厳? 威容っていうのかな? 特に乱暴そうな構えとか威嚇的な態度は取ってないのに。それどころか、無駄口も利かなきゃ身動きも少なくて、気配だって随分と押さえているのにね。雄々しい体格もがっつりと頼もしいけど、それ以上に。落ち着き払った態度の迫力の質が違う。
「気取ってんじゃねぇよ、この青二才がよ。」
「勝ち残れたのはクジ運だろうが、ええっ?」
 試合場の周辺に陣取ってたタンヌキ陣営の負け組たちが、野次って腐そうとしかかったのだけど、


   「「「「……………っ☆」」」」


 怒鳴り返した訳じゃない、睨みつけた訳でもない。何にもしてはいないのにね。腰に提げてた刀の鍔辺りを見下ろしてた視線を、ちろりと。少しばかり上げただけ。だってのに…やんやと罵声や怒号を上げかかってた連中が揃って“う…っ”と息を引き、しおしおと萎えて黙ってしまった気魄の物凄さ。やっぱ、人間の厚みが違うんだろうね、うんうん♪ ここまでの立ち合いでずっと使ってた模擬刀たちを、確かめるみたいに片手で持ち上げてみていたゾロさんだったけれど、じっと見つめてたあたしに気づいてか、こっちを向くと小さく笑ってくれた。その笑い方がまた、渋いっていうのか深いっていうのかvv 半端な奴がやって見せたなら“にたり”と気味が悪い笑い方になったかもしれないところ。なのに不思議だ、怖いくらいに鋭いお顔立ちをしているゾロさんだのにね。まあ見てなっていう、頼もしい笑い方だったから、胸の辺りがドキリと騒いでしまったのvv カッコい〜いvv

  「両者、前へ。」

 相手の“荒海のゴンザ”とかいうオジさんは、これもまた剣の使い手らしく。鞭のように堅く細くその身を絞った、なかなかの手練れという雰囲気。自分の背丈ほどもあるような、長い洋剣を背中にくくりつけてる。こちらもまた自前の本身の武器ではなく、刃を潰されている代物な筈で、確か槍みたいに振り回してはリーチ差で相手の飛び込みを制止して、ポイントを稼いでの技有りで勝ち進んで来てた正統派だ。何でこんな人がタヌキ親父の陣営にいるんだろうか。此処に来たばっかで事情が判ってなかったのかな? それでも此処まで勝ち進んでいれば、会場に空気の不穏さにもさすがに気づいてのことか、少々不機嫌そうなお顔をしていて、
「小僧。お前、どこかで見たことのある顔だの。」
 向かい合ったゾロさんへ、そんな声をかけている。………小僧。そうか、あのくらいのオジさんから見りゃあ そうなのか、ふ〜ん。話しかけられた側のゾロさんはと言えば、
「そうか? 俺の方には覚えがねぇんだがな。」
 あんたとは会ったことはないらしいぜ、それとも覚えてないだけかなと言いたげな。ちょいと挑発的な言いようを返したものの、妙に生真面目な人なのか、
「うむ、会ったことはないな。だが覚えはある。もしやお前、賞金首なのではないか?」
 う〜んと首をひねりながら…そんな言いようをしたの。

  ――― え?

 賞金首? ゾロさんが? だってそんな…賞金首っていったら、何か悪いことをして世界政府や海軍から手配が回っている人ってことでしょう? 確かに桁外れに強い人ではあるけれど、それってそんな人だからなの? 気配から立ちのぼってる気魄は、そんな歪んだものとは思えないんだけど。嗅ぎ分けられないあたしの読みが浅いってことなのかな。

  「ごちゃごちゃと五月蝿
うるさい おっさんだな。」

 何だかドキドキしちゃいかけたあたしだったし、場内もちょっとだけ ざわつきかかったのだけれど。ゾロさん、すぱっと切れ味の良い、張りのあるお声で切り返し、
「だとした。畏れながらと海軍へ訴え出て、懸けられてた賞金もらって。この試合も没収させんのかよ。」
 言い掛かりだとか違うとか、はっきりとした否定はしなかったけれど。でもね、この言われ方と、へっと鼻先で嗤
わらったゾロさんの太々しさへ、ゴンザのオジさん、ムッとしたらしい。だってこれじゃあ、勝ち目がないからって、戦わずしてゾロさんを引かせようとしてるって風にも解釈出来るじゃない。
「そうだったな。立ち合いに出て来た相手の素性など、後から正せば良いこと。味方か敵かを確かめねばならぬ、乱戦の只中ではないのだからな。」
 うむうむと噛みしめながら自分へ言い聞かせている年嵩な剣士さんへ、
「口数が多いぞ、おっさん。」
 相変わらずの不遜な口利き。でもね、腰から引き抜いた刀は2本共だったから、口利きはともかく、なかなかの手練れだって感じたゾロさんだったらしい。それを見て、相手の自分の背中から鞘ごと引き抜いた長い刀。それを顔の前にて両手で捧げ持ち、両手の拳の間に来ていた鯉口を、ちきっと鳴らしてゆっくり引き抜く。刃は潰してあるって判っているのに…不思議だよね。強い人同士の対決だからか、場内はシンと静まり返って、お兄ちゃんもあたしも、思わずごくって息を呑んじゃったよ。

   【開始っっ!】

 審判役が勢いよく腕を振り下ろし、それと同時に、ゴンザのおじさんが杖みたいに長かった鞘を投げ捨てた。邪魔だったからだろうけど、その昔、鞘を投げたるは二度と剣を収めぬということ、つまりは負けを見越してのことかなんて屁理屈を言った剣士がいたっていう講談を思い出した。あ、そういえばその剣士さんも二刀流じゃなかったか?

  「哈っっ!」

 余計なことに気を取られてる場合じゃない。長い剣を真っ直ぐに、正面からの一気突き。あまりに勢いがあったのと、それへと乗ってた気迫の重さに…半端なチンピラだったなら、動きを封じられてその場からどこへも動けなかったかもしんないっていう、そりゃあ勢いのあった“瞬殺タイプ”の攻撃だったのだけれども。
「…ふ〜ん。」
 両手へ構えた2本の剣はそのままに、にんまり笑ったゾロさんが………視界の中から一瞬にして消えた。
「え? え?」
 何なになに? あまりに勢いがあった剣だったのへ、身体ごと巻き込まれて消えちゃったとか? きっちり見失ってしまったあたしとはさすがに違い、一直線に突進したおじさんの方では、しっかとゾロさんの行方を追えてたらしく。
「むんっ!」
 槍か薙刀みたいに、その長い切っ先を剣ごと引っ張り寄せつつ方向転換。自分の真後ろへと横薙ぎに、剣をぶんっと振り回す。その到達地点には、
「おっとっと。」
 もう少しでまともに切っ先と正面衝突しかけたゾロさんが、思い切り足を踏み込んで立ち止まることで難を逃れた模様。うわ〜凄い。ほんの一瞬の立ち合いから これだもん。さぁさ、ここからどう展開するのかなって、不謹慎ながらもワクワクってしかかっていたのだけれど。……………次の瞬間、


  ――― はい?


 場内の人たちのほとんど皆が、同んなじ顔になってたと思う。何とかあたしが見て取れたのは、ぶん回されて突き出された剣の上へ、なんとゾロさんが ひょいって足をかけて登ったこと。そこから…相手に跳ね上げられたのか、それとも自分で飛んだのか。フッて姿が掻き消えて、次に現れたのはゴンザのおじさんの丁度真後ろ。上から飛び降りたというような着地の仕方で、でも、あまりに素早かったもんだから、まるで相手の身体を通り抜けたようにさえ見えたほど。そして………。

  「ぐあぁあぁぁっっ!!」

 どこを突かれたのか、叩かれたのか。辺りがびりびりと共鳴して震えたほどの絶叫を上げて、ゴンザのおじさん、ずでんどうっとその場に倒れてしまいました。白目を剥いて倒れたおじさんは、鋼のように引き締まってた分、やっぱり相当に重くって。大会の運営委員会の係の人たちが5人掛りで担架で運び出す騒ぎとなったそうです。
「うわぁあ、ゾロさん、凄いっvv」
 武者震いしちゃったようって跳びはねてたら、
「だろっ? ゾロは俺の自慢の仲間だからなっ。」
 ルフィも満面の笑みってお顔で、凄っごく嬉しそうに笑ってた。そうだよね、凄いもんね、自慢にしちゃうよね。そんな声が届いてか、こっちを見やったゾロさんが、にやっと笑いながらちょっとだけ片手を挙げて見せて。わぁ〜〜〜、何か良い雰囲気だなぁvv 仲間や友達が凄いってこと、自分のことみたいに思ってたり。そうやって褒められたのへ、素直に…にしては控えめながらも“嬉しいぞ”とか“サンキュな”って示せるなんてサ。最良の結果に終わりそうだってこともあってか、あたしたち以外の皆も興奮状態になってて。割れんばかりの歓声に包まれた試合会場だった。






            ◇



 さぁさ、いよいよ決勝戦だvv 勝ち残ったのは、ウチのお客様として登録していたゾロさんとサンジさんで。どっちが勝っても構わない、言ってみりゃ“エキシビジョンマッチ”みたいなものになっちゃったけれど、

  「待たせたな。」
  「ああ、そっちこそ“わざと負け”で逃げなかったのは褒めてやるぜ。」

 おいおい、何でまた ずずいとお顔を突き合わせて睨み合う眸が真剣なのかな? お二人さん。そんなまで仲が悪い二人なの? いよいよ始まろうとしていた決戦を前に、何だかな〜と危ぶんでたあたしの肩越し、すぐ背後から突然の声が立った。

  「ちょっと待って。」

 その声は…ナミさんじゃありませんか。どうしましたか? 両選手も審判さんも、こっちを見やったその視線の先にて、
「今の立ち合いで、あんた手首ひねったでしょう。」
「はぁあ?」
 え? うそうそ? あわわと慌ててるあたしの傍らから、すっきりした脚で柵をひらりと飛び越えて試合場へと進み出てったナミさんは、
「さすがは準決勝にまで出て来た相手よねぇ。さしもの腕自慢のあんたでも、手を焼いたって仕方がないわ。」
「なに言ってやが…だ〜〜〜、痛ってぇっ!」
 手首をぐぐいっと掴まれた途端に、さっきのおじさんに負けないくらいの大声で絶叫したゾロさんだったから、これはとんでもなくひねって傷めたらしい。だってナミさんの細腕で掴んだだけだってのに、そんなまで痛そうな声を上げるくらいなんですもんね。
「だ、大丈夫なの?」
 そんなそんな、関係ないことへ助っ人していただいて怪我させちゃっただなんて。お気の毒すぎるってば。あわわっとあたしも柵を乗り越えて傍らまで駆け寄ると、やっと手を放したナミさんが…そのままポンポンと、ゾロさんの頼もしい背中を叩いて見せて。
「いいじゃないの、どっちが勝ったって鍛治屋さんのチームの優勝ってことには変わりはないんだし。」
 そんな風に言って宥めてから、
「ほ〜ら、ちゃんも心配しちゃってる。湿布薬でも貼ってもらいなさいな。」
「…お〜い。」
 やたら にまにま笑ってるナミさんへ、まだ痛いらしい手首を押さえてどこか恨めしそうなお顔を向けてたゾロさんだったけれど、
「そうだよ、湿布貼らなきゃだ。」
 あたしがパンと手を叩いた傍らで、やっぱり付いて来てたチョッパーがあたふたと駆け回り始める。
「どうしよどうしよ、持って来てたのはここまでの手当てで全部使っちゃったよう。」
 そういや出場者が増えた分、ぶたれて負けて打ち身を負って戻って来たって人も多かったもんね。船か、手荷物を置いてるあたしんチに戻れば予備のがあると言う彼なので、
「じゃあ、表彰式は…。」
 早いトコ手当てをしないとと、チョッパーをひょいと抱えながらゾロさんを促して。一足先に戻ってるねと構えたあたしへ、ナミさんやお兄ちゃんがにんまり笑って見せた。
「ああ、準優勝者の盾はルフィくんに代理で受け取ってもらうサ。」
「賞金もネvv
 そうそう、準優勝者にも優勝者ほどではないけど賞金が出る。あああ、何かホッとしちゃったな〜。大枚を貰うこととなったのはあくまでもサンジさんなんだけど、
「その500万ベリーを、あすこでタヌキ親父と並んで座ってる、富豪たらいう貧相なキツネ顔の親父に叩きつけてやりゃあ、ご神体の“黄金の剣”はこっちへ戻ってくるのね?」
 ナミさんが“ふっふっふっふ…っ”と妙に底冷えのしそうな笑い方をしたんで、ウソップくんが“ひょえ〜…”と両手を上げつつ 後ずさって身を避けたほど。
「金離れがいい真似なんて、ナミにしてみりゃ熱でも出してて朦朧としてなきゃやれないことだもんな。」
 ………そこまで言う。
(笑) でもね、旅の途中の人たちだものね。怪我したり病気したり、突然の嵐に遭って船が壊れて修理だって事になったりもするだろう。そんな風な“いざっ”て時のためにも、おアシは沢山あった方が良いに決まってて。これまでの伝でいけば、ここで得た賞金だって大事な資金になった筈なのにね。ひょんな縁で出会っただけの間柄なのに、ホントにごめんなさいって ひしひしと感じちゃったよう。そんなあたしに気づいたか、

  「さ、帰ろうぜ。」

 ゾロさんが大きな手のひらでポンポンって背中を叩いてくれたんだ。/////// 優しいなぁ。でもそっちの手って…痛くないの?











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  *何だか凄っごくお待たせしている、亀の歩みのお話になってますが。
   もうちょっとなので お付き合い下さいませです。